夫れ老狐は怩あとにせず

白亀は毛宝が恩をほうず

畜生すらかくのごとしいわうや人倫をや、

されば古への賢者予譲といゐし者は剣をのみて智伯が恩にあて

こう演と申せし臣下は腹をさひて衛の懿公が肝を入れたり、

いかにいわうや仏教をならはん者父母・師匠・国恩をわするべしや、

此の大恩をほうぜんには必ず仏法をならひきはめ智者とならで叶うべきか、

譬へば衆盲をみちびかんには生盲の身にては橋河をわたしがたし

方風を弁えざらん大舟は諸商を導きて宝山にいたるべしや、

仏法を習い極めんとをもはばいとまあらずば叶うべからず

いとまあらんとをもはば父母・師匠・国主等に随いては叶うべからず

是非につけて出離の道をわきまへざらんほどは父母・師匠等の心に随うべからず、

この義は諸人をもはく顕にもはづれ冥にも叶うまじとをもう、

しかれども外典の孝経にも父母主君に随はずして忠臣・孝人なるやうもみえたり、

内典の仏経に云く「恩を棄て無為に入るは真実報恩の者なり」等云云、